イベントレポート
空き家を地域の「資産」に。平時と災害時をつなぐ新プロジェクト
— スムヤドスム北陸版リポート —
スムヤドスムとは
全国で総数900万戸を超える空き家は、地域の活力や安全性を脅かす大きな課題となっている。一方で、都市部への一極集中の緩和や二地域居住、インバウンド客の増加など、地域には新しい住まい方や滞在ニーズも生まれている。こうした課題と可能性を結び付け、「空き家を地域の資産に変え、平時と災害時の両方で役立てる」新しい取り組みが「スムヤドスム」プロジェクトだ。
スムヤドスムが思い描くのは、空き家を『管理負担』ではなく『地域を支える住宅』として再生する仕組み。二地域居住や観光客向けの滞在拠点へ改修する際に耐震補強も施し、災害時には避難所や被災者向け住宅として活用する。すなわち「住む(スム)」「宿(ヤド)」「再び住む(スム)」へと、状況に応じて役割を変える住宅モデルが核となっている。
このプロジェクトは時事通信社が企画・調整を担い、不動産会社や空き家再生事業者が連携するコンソーシアム方式で進められている点も特徴だ。関係事業者や自治体と協働し、空き家再生と地域の防災力強化を一体で進める体制づくりを目指している。
空き家が地域の負担ではなく、暮らし・観光・防災を支える資産へと生まれ変わる未来へ。スムヤドスムはその実現に向けて、地域と共に新しい空き家活用の形を全国へと広げていく。
プロジェクトを実際の社会の中に実装する試みとして、休眠預金活用事業に申請し、今年1月から「スムヤドスム北陸復興版」として、能登半島地震の被災者を対象に、空き家相談会や所有者アンケートなど幅広い支援を展開した。
イベントレポート
能登半島地震の被災地で考えるスムヤドスムの可能性
7月5日、石川県七尾市で能登半島地震の被災地の人々が向き合う空き家問題について、空き家利活用の機運を盛り上げようと企画されたイベント「実家と空き家のまずさいしょの相談会」には約100人が来場、地域の未来を語り合う場となった。第1部ではトークセッションを、第2部はタレントの松本明子氏が登壇、自身の実家じまいにまつわる体験談を赤裸々に語った。
空き家が生む新たなチャンス
第1部のトークセッションでは、ファシリテーターを務めたジャーナリストの堀潤氏の下、七尾市長・茶谷義隆氏、スムヤドスムに参画する一般社団法人日本ファームステイ協会代表理事・上山康博氏と共に、街の課題と可能性、そしてスムヤドスムが描く新たな価値について議論が深められた。市内では震災前から約2000軒の空き家が確認され、そのうち400軒以上が危険空き家とされてきた。先祖代々の家を手放しにくい能登地域でも、地震後は意識が大きく変化したと茶谷市長は語る。「活用できるなら手放したい」「誰かに使ってほしい」という声が増え、市では空き家バンクなどの制度を活用し、関係人口の受け皿づくりを進めている。
空き家の相談をする来場者(7月5日七尾市)
さらに上山氏は、イタリアの「アルベルゴ・ディフーゾ(分散型ホテル)」を紹介。街全体を一つの宿泊施設とみなし、地域に点在する空き家を『客室』として活用する仕組みだ。七尾市でも海・温泉・食文化などの資源と結び付ければ、空き家は観光の重要な資産へ変わり得ると指摘した。
「住む・宿・再び住む」をつなぐ仕組みとしてのスムヤドスム
議論の中心となったのが、平時と災害時をつなぐ新たな空き家活用モデル「スムヤドスム」である。平時は二地域居住や農泊・民泊として運用し、災害時には避難所や被災者向け住宅として提供する仕組みで、所有者は収入を確保しながら、防災にも貢献できる。そのための事前準備として、スムヤドスムは都道府県との防災協定締結を目指している。堀氏は二地域居住ニーズの高まりを指摘し、交通インフラの強化の重要性を提起。茶谷市長は「のと里山空港」の羽田便の増便や関空・福岡便の開設を国に働き掛けていると述べた。
社会実装に向けて動き出した七尾モデル
本イベントでは「空き家なんでも相談会」も開催。空き家再生事業者、金融機関、市役所など7つの相談ブースが設置され、42組が相談に訪れた。「半壊した貸家をどうすべきか」「空き家の処分方法が分からない」など切実な声が寄せられ、地域課題の大きさと、スムヤドスムへの期待の高さが浮き彫りとなった。
また、七尾市役所の協力を得て、イベントと並行して七尾市内の空き家所有者と思われる方、約2700人を対象に郵送アンケート調査を実施。1136件の回答を得た。アンケートでは、物件の所有者の23%が空き家について相談したことがあると回答したが、一方でいまだ32%が相談してみたいとの希望を持っていることなどが明らかになった。今回、相談をしてみたいと回答した方には、スムヤドスムプロジェクトが設けたウェブの空き家相談窓口を紹介した。アンケートが利活用を含めた空き家の課題解決への糸口となった。
七尾市内にご所有の建物に関するアンケート(2025年7月実施)から引用
本イベントやアンケートの実施は、スムヤドスムの社会実装に向けた具体的な試行事例となった。空き家の再生と防災を同時に進めるこの仕組みは、七尾市のように地震の被害を受けた地域にこそ必要とされる。空き家の価値を見直し、人が集い、安心して暮らせる街をつくる挑戦が、七尾市から始まっている。
※本イベントは、時事通信社が主催、七尾市、のと共栄信用金庫の後援で矢田郷地区コミュニティセンターで開催。イベントを運営した空き家活用株式会社のイベントレポートを基に再構成しました。
相談会を三条市、魚津市、金沢市でも開催しました。
新潟県三条市
- 開催日時
- 2025年10月25日(土)
- 開催場所
- まちやまサイエンスホール
- 後援
- 三条市
- 延べ相談数
- 22組
富山県魚津市
- 開催日時
- 2025年11月29日(土)
- 開催場所
- 新川文化ホール
- 後援
- 魚津市・北陸銀行
- 延べ相談数
- 14組
石川県金沢市
- 開催日時
- 2025年12月6日(土)
- 開催場所
- 金沢市文化ホール
- 後援
- 金沢市
- 延べ相談数
- 32組
時事通信社杉本一郎特別参与に、
スムヤドスム・プロジェクトを立ち上げた意図を聞いた。
「時事通信社が地方を取材する中で、空き家問題が自治体の大きな悩みになっていることを痛感します」と杉本氏。空き家バンクだけでは十分に機能せず、相続・売買・利活用に踏み込んだ支援ができない現状を、全国の現場で見続けてきたという。
その中でスムヤドスムを立ち上げた理由を尋ねると、「行政だけでは解決できない領域を、民間の専門家が連携して埋めていく。その役割分担の新しい形をつくりたかった」と語る。不動産、リフォーム、地域活性化の専門家が団体として動くことで、相談から改修、活用、そして災害時の住宅提供までついては、「47都道府県すべてと防災協定を結びたい。大規模災害時に民間の空き家を迅速に活用できる体制を整えたい」と力強い。時事通信社の全国ネットワークを生かし、自治体との連携を広げていく考えだ。
魚津市相談会で挨拶する杉本一郎スムヤドスム代表理事(2025年11月29日富山県魚津市)
空き家を壊すか、活かすか
能登から始まる「解体しない復興」の仕組みづくり
能登半島地震からの復興が進む中、石川県は2024年度末、公費解体を急がず「猶予期間」を設けるという大きな決断を下した。背景には、被災家屋を「残したい」という住民の声、そして休眠預金を活用した民間公益活動の後押しがある。
「自宅を壊したくない」「修繕して住み続けたい」「宿泊施設として活用できないか」―県にはこうした声が相次いだ。同時に、復旧・復興に携わる作業員の宿泊先不足も深刻化。壊して更地にするだけでは地域の未来に資産が残らない。そこで石川県は、被災家屋を修繕し利活用するための仕組みづくりへ大きくかじを切った。
この施策の変化に少なからず影響を与えたのは、休眠預金を活用し、民間の専門家が集落単位で被災家屋を調査するプロジェクトである。休眠預金活用事業とは、銀行口座などで10年以上出し入れがない「眠っているお金(休眠預金)」を、社会課題の解決や民間公益活動のために有効活用する制度。この助成金を活用して、一般社団法人居住支援全国ネットワークが資金分配団体となり、4つの実行団体が選定され、被災者への相談支援や被災家屋等の調査活用事業を実施。時事通信社が展開した「スムヤドスム北陸版」をはじめ、特定非営利活動法人YNF「能登半島地震における広域連携を見据えた派遣型士業相談支援及び珠洲市における空家調査事業」、有限会社CR-ASSIST「奥能登不動産に伴走する居住支援事業」、一般社団法人能登復興建築人会議「直して残そう~住まいと地域の再生支援プロジェクト~」が、それぞれの被災地支援に取り組んだ。居住支援全国ネットワークで事務局ディレクターを務める五十嵐航さんは「(まだ使えそうな伝統的住居などの)公費解体が進むにつれ、生活に根ざした文化がなくなってしまうとの危機感を持つ人が増えてきた。そのような状況のなかで、官民問わず同じ課題認識を持つプレイヤーが集まり、行政と連携した会議体のもとで、創造的なディスカッションや定量的な調査を行ったことが、被災家屋を復興に活用する選択肢を示すことにつながったのではないか」と語った。
中でも能登復興建築人会議は、被災地の復興を支援する建築士等が中心となり、活用価値のある物件を1軒ずつ診断。輪島市・能登町では約1200軒を調査し、活用可能性のある被災家屋をデータベース化した。さらに、2025年4月には18人の宿泊事業者らが参加する視察ツアーも実施。今後、これらのデータを家屋所有者や自治会等に提案し、地域をあげて復興に向けた活用のあり方を模索する。
こうした民間の公益活動も後押しする中で、石川県は公費解体の手続きを急がず、所有者が修繕・利活用を検討できる「留保制度」の創設を発表。壊す前に「本当に再生できないのか」を見極めることが制度として認められた。
この取り組みは、単なる復旧にとどまらず、「壊さずに残す」ことが地域の未来をつくるという新しい復興モデルである。休眠預金活用事業がつくった官民連携のネットワークが、公費解体をめぐる施策の変化を後押しし、被災地の空き家を地域資産へと再生する道筋を切り開いた。能登で実際におこったこれらのエピソードは、全国の自治体で今後大規模災害がおきた際の復興のあり方について、新たな選択肢を示すロールモデルとなることを期待する。
企画・制作 時事通信社業務局スムヤドスムプロジェクトチーム
本事業は、2024年度休眠預金活用事業 緊急枠
「令和6年能登半島地震被災者を対象とする居住支援事業」の一環として実施しました。
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